ABYSS-1
□『CrossOver』第三章
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【空の都市】
嵐の気配がした。
今日のバチカルは朝から雨だった。
ぱらぱらと言う音を聞きながら、屋敷の書庫に籠もる。
窓辺に置かれた椅子に座り本を読んでいた。
足元には寝そべる大犬。
一見優雅な一時。
しかし、頭の中は…。
『…よって闇の音素シャドウと光の音素レムは相反する力故に…』
脳内講義中だった。
(つまり、闇の音素と光の音素は仲が悪いから、一緒には力を貸してくれないって事だろ?)
『…まぁ、そんな感じだな…簡単に言うと、他の音素も相反・相互関係がある、戦況で有利不利が架かってくるので良く覚えておく事だ』
雨の暇な時間も有意義に過ごしていた。
これから起こる未来の為に。
暫らくすると扉を叩く音が聞こえた。
返事をすると、カートを押してガイが入ってきた。
「ルーク、少し休憩しないか?」
ガイは俺の事を呼び捨てにしてくれるようになった。
「うん、する!」
それが嬉しかった。
カートの上にはお茶の用意。
お茶請けはクッキーみたいだ。
机に用意されていくのをおとなしく待つ。
手伝おうとしたら、熱いから駄目だと言われた。
こんなにガイは過保護だったっけ?と思う。
『少しずつ、未来が変わっていっているのだろう』
(気を付けないと、悪い方にも…だな、頑張ろう)
より良い未来に。
そうこう二人で話してるうちに用意が終わったみたいだ。
良い匂いが立ち籠める。
「ありがとう、ガイ!いただきます」
注がれた紅茶をストレートで一口啜り、アイスボックスのクッキーへと手を伸ばす。
甘く香ばしい味が口内に広がった。
ほんのりとオレンジの風味がした。
「おいしい!」
正直に感想は口から出た。
言うとガイは何だかとても嬉しそうな顔をした。
もしかして、と思う。
「もしかして、これ…ガイがつくった?」
「え!?なんか変な味とかしたか?!」
どうやら図星みたいだ。
ひどく驚いた顔をした。
可笑しくて、笑った。
「ん〜ん、だったらいいなって、おもっただけ!」
その優しい味が、何処かで覚えがあったから。
旅の途中の所々。
笑顔と共に、あった味。
また出会えた、未来の姿。
「ありがとう、すごくおいしいよ」
そう言うと、何故か顔を赤くした。
(?照れたのかな?)
『…天然魔性』
ローレライが意味不明な四字熟語を呟いた。
お茶を終えて片付けていると、執事のラムダスが慌てて入ってきた。
「ぼっちゃま!ナタリア様が御見えです!」