ABYSS-1

□『FLOWER』
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人間とは、面白いものだと思う。

【FLOWER】







暖かくも眩しい光の中、我が半身“ルーク”の朝は始まる。
長い緋色の髪を白いシーツに揺蕩わせながら寝返りを打つ。
余り朝は得意ではない。
扉を叩く音が聞こえた。
「ルーク様、お早ようございます、朝のお支度に参りました」
この屋敷のメイド達だ。
未だベッドの住人だったルークは、その緋色の長い睫毛を揺らし、覚醒していく。
現われたのは緑柱石の瞳。
まだ視点は定まっておらず、眠気に潤む。
「…はぁ〜い…どうぞぉ」
寝呆けながらもメイド達に入室を許可する。
入ってきたのは四人のメイドだった。
因みにあの金髪の青年“ガイ”はいない。
朝の支度に来るメイド達が多いので、女性恐怖症の彼には辛いのだろう。
一番朝の支度を手伝いに来たがっていると思うのだが…仕方がない。
用意するメイド達を尻目に、漸く覚醒したのかルークが近寄ってきた。
「ライぃ〜おはよ〜っ」
鼻に柔らかい感触と共に音が降る。
どうやら最初以来癖になった様で、毎日の朝の日課になっていた。
顔を赤らめるメイド達を横に見ながら、お返しにとルークの頬を舐める。
『お早よう、ルーク』
どうやらこの癖、以前旅をした時からの癖らしいが…あの金髪の青年辺りがその事実を知った時、どう思うだろうかと、ふと思う。
そうこう考えているうちに用意が整った様で、ルークは顔を洗い、歯を磨く。
その間私はメイドの一人にブラッシングをされる。
最初は私を恐がっていたメイドや使用人達も今では慣れたようだった。
おとなしく寝そべり、それを受ける。
「ルーク様…っ本日の髪型なのですけど…」
「……まかせるよ」
少し語気も荒く聞くメイドにルークがやや怯えてそう返すと、メイド達は叫ばん勢いで喜んだ。
これも朝の日課だ。
「本日のお召物は旦那様がご用意された物ですよ」
最近、ファブレ夫妻は競うようにルークに服を買い与えていた。
事実競っているのかも知れないが…。
ルークは用意された服を文句も言わずに袖を通す。
髪もおとなしく整えられるのを待つ。
抵抗するだけ無駄だと悟ったと、先日言っていた。
可愛らしいと思うのだが。
長い緋色を左右に高く結び、白い細身のリボンで纏められていた。
その身を包む服は黒いシャツと五分丈のズボン、胸元には幅広のリボンをタイのように緩く結ぶ。
足元は焦茶のロングブーツ。
『良く似合っている(少女の様で)』
『…アリガトウ』

メイド達は自分達の仕事に満足そうだった。
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