「きゃっ!!?」

「おっ、と…!!?」



―――最悪。

急いでいる時に限って様々な障害が立ち塞がるというもの。

それは重々承知していたが、まさか走っている最中に人とぶつかるとは。


全力疾走してましたからね、私。吹っ飛ぶのが当たり前ってか。

取り敢えず相手が怪我をしていなければ良いのだが。


廊下に尻餅をついたまま、そんな事をぐるぐると考えていたら。



「おねーさん。スカートの中、丸見えになってるぜー?」

「っっっ!!!?」



――軽い口調と共に告げられた最悪の事実に、一気に現実へと引き戻された。

まさかのM字開脚状態。なんじゃ、この格好!あたしは○ンリンじゃねぇっての!

慌てて脚を閉じる。(もう遅いけどね色々)


「ははっ、ごめんな?立てるかい?」

「……どーも」


爽やかスマイルを浮かべながら差し出された、大きな彼の手をおずおずと取って、立ち上がった。

嗚呼、お尻が痛いわ……



「怪我は…無いみたいだな。ったく…廊下は走っちゃ駄目って教わらなかったっけ?」

「貴方にだけは言われたくないです、前田慶次君。」

「あれ、俺の事知ってるんだ?」


知ってますとも。毎日の様にまつ先生に怒られていれば嫌でも頭に入ります。

…まぁ…それだけじゃなかったりするんだけど。


「へぇ…嬉しいねぇ」

「は。なんで」

「だって、俺だけだと思ってたから」




それは。


どういう。




「じゃ、次からはちゃんと前見て走れよ?」

「え、あ…うん…」

「またな!―――ちゃん」




走りながら手を振って去っていく彼。

その背中を見詰めながら、



「…廊下は走っちゃ駄目なんじゃなかったんですかー?」



微かに聞こえた自分の名前に

思わず、笑ってしまった。






[廊下にぶつかって/前田慶次]

◎御題配布元◎
異界の書のレシタティーブ





だが断る!



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