図書室
□日常徒然
1ページ/1ページ
無事にできる?
選択科目の「家庭科」授業。
無論、女子生徒が大半を占めている。
そして、今日のお題はクッキー。授業で作るということで、皆の表情は真剣そのもの。しかし、内心は違う。それは好意を抱いている人物の為に、美味しいクッキーを作りたいと思っていた。
その為、同じグループを組んでいるマナと友梨はいそいそと動く。だが、一名だけおかしな動きを見せている生徒がいた。その人物というのは、アルディス。料理を苦手としている彼女は、生地作りに悪戦苦闘。そして小麦粉の量が少なかったのか、生地は全体的に水分が多い。
「ど、どうしましょう」
「卵、入れすぎ」
「そうなの?」
「一個で、いいのよ」
友梨の言葉に、アルディスはキョトンとした表情を浮かべていた。流石、今まで料理を作ったことのない彼女。どうやら材料を適当に入れて混ぜ合わせれば、料理が作れると思っているらしい。しかし料理は、簡単に作れるほど甘くはない。その証拠に、クリーム状の生地を作ってしまった。
「最初から、作り直し」
「小麦粉を入れたら、いけないのかしら」
「それは、駄目よ。最初から作り直した方が、早いわ。これ以上小麦粉を、無駄にできないのよ」
「難しいわ」
「覚えれば、簡単よ。ねえ、マナ」
「……えっ!?」
どうやら今までの会話を聞いていなかったのか、突然の友梨の言葉に反射的に間の抜けた声を発してしまう。そして、何を話していたのか聞き返す。するとその反応に友梨は、やれやれと肩を竦めていた。マナは、特定の人物に好意を抱いているということを口に出したりはしない。
しかし友梨を含め、アルディスも気付いている。マナが、好意を抱いている人物がいるということを。
その証拠に、真剣な表情を浮かべつつクッキーを作っている。そしてマナは、型を取った生地の上にドライフルーツを乗せていた。それも彩を考えて乗せているのか、色彩がとても美しい。これだけを見ると、商売用のクッキーに等しい。しかしこれは売り物ではなく、マナが好意を抱いている人物に手渡すものであった。勿論、愛情は沢山込められていた。
「マナは、一点に集中してしまうと他のことに目がいかないのね。本当に、羨ましいことです」
「そ、そんなことは……」
アルディスの言葉に、マナの顔は真っ赤になってしまう。そして図星を突かれたのか、口籠ってしまう。そんな初々しい姿に、友梨とアルディスはクスっと笑みを浮かべると、これ以上からかっては可哀想だと判断する。そう、二人はこの恋を影ながら応援していたからだ。
「で、アルディスは作り直し」
「もう、大変ね」
「卵を入れすぎたのが、悪いのよ」
「友梨、大声ははしたないわ」
流石、お嬢様のアルディス。物事を全て大らかに捉えてしまい、のほほんとした性格を見せる。一方友梨は、現代っ子。アルディスの性格にタイミングを失うが、今はやることをやらないといけない。その為、珍しく口調を荒げる。何より、グズグズしていたら家庭科の授業が終わってしまう。
「アルディスは、小麦粉の分量を量る」
「友梨は?」
「ボールを洗って、卵を持ってくるわ」
「わかったわ」
しかし、アルディスは料理が苦手。それにより、手付きは大雑把。テーブルの小麦粉をぶちまけてしまう。周囲に漂う、白い粉。それを思いっきり吸い込んでしまった友梨は、何度も咳き込む。一方アルディスは、顔面を白く染める。しかし、微笑を崩すことはなかった。
「もう! 何をやっているの」
「あらあら、御免なさい」
「マナも、何か……」
友梨はマナにも、味方になってほしかった。しかし粉塗れになっているマナの姿を見た瞬間、言葉を失う。それは、マナが泣いていたのだ。綺麗に作ったクッキーが粉を被って、真っ白状態。流石に、これをオーブンに入れて焼くことはできない。下手したら、こげてしまう。
泣いているマナに、微笑を称えているアルディス。その両者に挟まれ、友梨はどうすればいいかわからなくなってしまう。その為、両手で顔を覆うと大きく溜息をついた。その後、三人のクッキーの仕上がりは――何とか、形となった。そして、それぞれの目的の人物へ手渡ったという。