おお振り小説

□絶対ニ渡サナイ
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なぁ、
分かってるんだろ?

(ムシするな、)
(俺だってお前が好きなんだ)


今隣に居るのはソイツじゃない、
ちゃんと俺を見ろよ

(聞きたくない、アイツの話なんか)
(見たくない、そんな笑顔なんか)


認めてなんかやらない

(お前の気持ちも、)
(アイツのことも、)



   + + + + + + + + + + + + +   



ピーッ!なんて耳障りな音がグラウンドに響く。正直メンドクサイけど、集合の合図だからしょうがない。それで?…なんだ、今日はサッカーの試合かよ。

でも、ま。田島と浜田は試合とかそーいうの好きだから、今日の体育はアイツを独り占め出来そうだな。ナイス体育教師!お前あのクソレより気が利くじゃん。

「みっはしー!ちゃんと俺の活躍するとこそこで見てろよなー!」
「おーえんたのんだぞー」
「うぉっ 田島くん、も 浜ちゃん、も がんば、れ!」

あーあー、そんなにブンブン手なんか振るなよ。ほら、田島も浜田も張り切ってる。アイツらってホント分かり易いよなー

…ま、これで邪魔者は居なくなった。ここだと試合の邪魔になるし、つーか暑いし。三橋を連れて木陰に移動する。あー、けどミスったかも。確かここって一組の教室から見える辺りなんだよな、しかもアイツの席は窓際。

(やべ、気をつけねぇと)

ふと隣を見る。ふわふわの髪の毛が光に反射して、なんだかスゲェ綺麗だと思った。俺はそのまま何も考えずに、そのキラキラする髪に手を伸ばす。

「…いずみ、くん?」
「んー、葉っぱがな。付いてたぞ」

ほら。と見せてやれば、ふにゃりと嬉しそうに笑って「ありがと」と言う。なんだかちょっとした優越感。だって、この笑顔は今は俺だけのものなんだから。

(ずっと俺だけを見ていればいいのに、)

だけどそんな時間は1分も保たなくて、途端にモジモジとしだす三橋。嗚呼、なんかスゲェ嫌な予感がする。俺ってそういうとこ変に勘が働くからさ、今から三橋が何を言おうとしてるのかって、大体予想出来ちゃうんだよね。

「…あっ……あの、ね いずみくんっ」


(ほら、キタ…)


右見て左見て、それからまた右を見て……って、お前は今から横断歩道でも渡る気かっての。しょうがないから「どうした?」なんて促してやったら、案の定キラキラと瞳を輝かせて嬉しそうに笑った。

「あああ、あのねっ きょう、ねっ!」
「あー はいはい、ちゃんと話聞いてやっから。もう少し落ち着けよ、な?」
「あ、ぅぅっ」

話の内容は大体予想がついてる。たぶん、つーか絶対に間違ってない。だから本当は話なんか聞きたくないんだけど、そうしたらコイツが悲しむから。それが例え三橋の想い人の話でも、俺はそれを聞いてやる。それでコイツが笑うなら、幾らでも。

(…その話をする時だけは、)
(コイツの隣は俺だけのものだから)

それがどんなに屈辱的なことでも、そこに居られるのなら何でもいい。コイツの隣にさえ居られれば、何でもいいんだ。

三橋はさっきよりも幾分 落ち着いた表情で俺を見上げると、ふわり…とまるで花が咲くように微笑む。それはあまりにも綺麗で、このまま誰の目にもつかないところへ連れ去ってしまいたいと思った。…勿論、そんなことはアイツが許さないだろうけど。

「あの、ねっ 朝練の時に、ね!栄口く、から アメ、もらった のっ」
「…へぇー」
(そんなの知ってる、)
(俺も隣で見てたんだから)

「それで、ね!お昼休み、に 今日一緒に帰ろうって、約束 した、んだっ」
「…っ………そっか。良かったな、」
「うんっ」

さっき俺に向けていた笑顔とは違う、嬉しそうな、幸せそうな笑顔。アイツのことを考えている時、話している時、三橋は全部この表情をする。たまに何かに傷付いて泣く時もあるけど、それでも直ぐにアイツの名前を呼んで笑うんだ。

(そんな顔して笑うなよ、)
(俺はこんなにもお前が好きなのに…っ)

伝わらない想い、哀しみ、怒り。どうにもならない感情が俺の中でグルグルと渦巻いて、気まぐれに空を仰いだ時だった。

(…さか、えぐち……)

今 一番顔を見たくない奴と目が合った。
それはアイツも同じだったのか、初めは驚いた表情をしていたのに、今はスゲェ悔しそうな表情をしてる。…だから直ぐに分かった、栄口は俺たちをずっと見てたんだって。じゃなきゃあんなカオしねぇよ


─ 悔しかった、隣に居るのは俺の筈なのにそれを認めてもらえないことが

─ 憎かった、三橋のとびっきりの笑顔を独り占め出来るアイツが

─ 哀しかった、何も出来ない無力な自分が


だから、最後の悪足掻きとばかりにアイツが見ている目の前で三橋を抱き締めてやった。それからそっと耳元に顔を近付けて、アイツを挑発する。

驚愕と怒りに見開かれる瞳、それから僅かに動く栄口の唇。その言葉を頭の中で繰り返そうとした時、遠くの方で集合を知らせるホイッスルと授業の終了を知らせるチャイムが同時に響いた。

「…泉、くん?」

不思議そうに首を傾げる三橋。頼むからもう少しだけ俺にも‘警戒心’というものを持って欲しい。

「…栄口、こっち見てたぞ」
「ふぇっ!」

慌てて辺りをキョロキョロと見渡す三橋。俺ももう一度だけ窓を見上げる。…が、既にそこにはアイツの姿は無くて。それでも俺の脳内には、憎悪に満ちたアイツの表情だけが鮮明に残っていた。







(くそッ… ミスった、)

あれから田島たちと合流。だが一緒に居る気にはなれなくて、三橋を預け取り敢えず一人部室に篭ってみた。10人だと狭い部室も、案外1人だと広く感じる。

(……アイツ、)
(最後は泣きそうな顔してたな)

さっき見た栄口の表情が過ぎる。


     『 キ エ ロ 』


憎悪に歪む表情、哀しみに揺れる瞳。それはまるで鏡を見ているようで、先程までの自分と被る。…そうしたら、途端に今まで憎くて憎くてしょうがなかったアイツが、なんだか無性に心配になった。

(俺が挑発さえしなければ、)
(栄口はあんなことを言わずに済んだ?)

悔しい。…けどアイツは本当に‘いい奴’なんだ、ライバルの俺や他の奴らにも平等に。ただ少しだけ、三橋には輪をかけて優しいだけで。

─ 嗚呼、
  俺はそんなアイツを傷付けたのか

馬鹿だと思った。何も考えていなかった俺も、そんな一瞬の弱さを見せた栄口も。

(…だから俺は謝んねーぞ)



負けたなんて認めない


アイツも、

アイツの笑顔も







          





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うーん、泉さんも黒くなりきらなかった。寧ろ最後の方がイズサカっぽい(泣)なんだそのドマイナー!ちょっと泉さん、アンタ男前過ぎるよっ←

こんな恋敵な二人が大好きです(^^)


2010/6/9
 

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