おお振り小説

□癒々心身
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(……さっみ、)

ハァ、と紺に色付いた空に息を吐く。
今日は一段と冷え込むと聞いていたが、まさかここまで冷えるとは。ズルズルと引張っていたトンボの柄を一旦肩に凭れ掛けると、寒さに悴んだ両の掌を擦り合わせた。

「うげ、つめてぇー」

思わず眉を顰める。この冷たさは尋常じゃない。鉄製のトンボなんか持ってたらそれだけで感覚が麻痺るっつの!

(あー さむいさむいさむい、)


「泉、どうかした?」

少しでも熱を作ろうと、掌を揉んだり息を吹き付けたり。そう自分なりに試行錯誤していたら、近くでトンボを引いていた栄口が心配そうに声を掛けてきた。

「や、手が固まって動かねーからさ」
「ふーん、」

…の割には素っ気ない返事だけど。
栄口は何か考える素振りをすると、でも直ぐにいつもの柔らかい表情に戻って。

「こうするとあったかいよ?」

なんて言いながら俺の両手を自分のそれで包み込んできた。そうして自然と近くなる距離。

(あったけぇ…)

手が、と言うよりは身体全体が。
自分も寒いだろうに伏目がちに息を吹き掛ける栄口に、身体の内側からほかほかと温まってくるのを感じる。ホント、こいつには敵わねーわ。

「どう?」
「おー すっげあったまった」
「そっか、よかった」

そう、ふんわりと形作られる表情。
俺は目の前の風に晒された額に自分のそれをくっ付けると、まるで栄口のその表情が移ったみたいに口角を少し上げて笑った。







              





(その柔らかい表情と体温に俺の冷えきった身体は忽ちに熱を廻らせ心はほっこりと温まる)





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5555hit頂きました麦様へ

最大級の愛を込めて!


※お持ち帰りはリクエスト頂きました麦様のみです。


2010/12/28
 

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