拍手log
□I can hear you.
1ページ/1ページ
ふわりふわり、朝露に濡れた草葉の匂いと一緒に薫ってくる蜂蜜のような甘い香り。小走り気味に近付く足音。呼ばれる名前。
…クスリ、思わず笑みが零れる。
だけどそれにはまるで気付かないフリをして、クスクスと笑いながら歩調を緩める。
「 ―――――……!」
ダメだよ、何度名前を呼ばれたって振り向いてなんかあげない。ちゃんとここまで追いついてくれなくっちゃ
「 ――…ぐち、くんっ」
ほら、もう少し。
たまにリズムを崩しながら、けれど確実に近付いて来る声と足音。空っぽだった心がどんどん満たされていく。
「 さか、えぐち くんッ!!」
そう一際大きく呼ばれた名前。嗚呼やっと追い付いたか、なんて思う間も無く、気付けば“ぎゅぅうっ”と柔らかなものに包まれていた。
「はよ、三橋。」
「おは ようっ 栄口くん!」
着けていたヘッドフォンを外してそっと振り返る。…ああ、やっぱり三橋は可愛い。そこにはキラキラと太陽の日を浴びて輝く蕩けるような笑顔があった。
「オレ、何度も呼んだ のに……」
「ごめんごめん、音楽聴いてたから」
― なんてね。
本当は何処に居たって、どんなに小さくたって君の声は聴こえてるよ。だけどそれじゃあ俺だけが君を求めてるみたいで不公平だろう?…だからね、たまには君にも俺を求めてもらいたいんだ。
まさかこんな道の真ん中で抱き着かれるとは思わなかったけど。
「ねぇ三橋、お詫びと言ってはなんだけどさ、今日の晩飯カレーなんだ。良かったら泊りも兼ねてウチに食べに来ない?」
そう言いながら、不貞腐れたように膨らむ白く柔らかな頬を撫でる。それからにこりと微笑めば、三橋からも再びキラキラと輝く満面の笑顔。
「うんっ 行き、たい!」
そう言って繋がれた左手が、伝わる温もりが、とてもとても幸せで愛おしかった。
>>>>>>>>>>
2010/9/6
(移動→2010/12/17)