囚われの華

□華の邂逅、崩落のはじまり
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この狂おしいほどに愛おしい華。彼女との出会いは、言うなれば天命だ。俺たちは出会うべくして出会った。それほどまでにあの出会いは、衝撃的なものであった。
今でも、その瞬間のことは昨日――いや、数秒前のことのように覚えている。たった一度の、それもほんの刹那の邂逅であったが、その瞬間胸に灯った熱い何かは、今日に至るまでずっと消えることなく燃え続けている。それはきっと、これからも。



花魁道中、遊女らが自らの営業先まで練り歩くそれは、遊廓を有するこの街にとってはごくごく当たり前の、日常風景のようなものだ。
花魁たちが列を作って歩く――俺もその光景は嫌いじゃない。なんせ、見渡す限りの美女、美女、美女。目の保養にならないはずがない。
あの子が可愛いだとか、あの子が綺麗だとか、その場限りの品定めをする。――それだけだ。その可愛い女の子がどの子だったかなんて、次の花魁道中を見た時には忘れている。
その日もきっと、そんなふうに彼女たちを軽く観察して、“可愛い”とか思って、それだけで終わる、そう思っていた。

――そのはずなのに。

一向が、目の前を横切る。鮮やかな色彩が俺の視界を占拠する。今日はどんな花魁がやってくるのだろうか、美人なんだろうか、そんな一時の期待に胸を躍らせていた。
そんな時だ。――もっと前かもしれない。とにかく、その前のことはよく覚えていない。
ただ俺は、次の瞬間――ある一点に、酷く目を奪われたのだ。

「……っ」

思わず息を飲んだ。たった一瞬、視界に入ってきたその一人。俺は――ただ目が離せなかったのだ。
彼女の何が、そうまでして俺を惹きつけたのか。当時の俺には、全くと言っていいほどわからなかった。絶世の美女でもなければ、類稀なる才能に恵まれているようなわけでもない。それに、道中を彩る華やかで気高い花魁ではない。花魁の傍らにいた、一人の女性――それも、どこか少女の面影さえ感じさせるような若い新造。
時が止まるような感覚から我に返り、行列のほうに目を戻せば、そこにはもう彼女の姿はなかった。色艶やかに着飾った花魁たちが横切っていく。けれども、俺の意識はどこか上の空だった。――どんな美女も、俺の視線を奪いはしなかった。
ほんの数秒、いや、一秒にも満たない邂逅であった。しかし、その残像はいつまでも俺から離れてはくれなかった。



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