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□薄幸な男
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「青年って可哀想だよねえ」
彼の顔を舐めるように眺めながら呟く。
端正な顔がその言葉と共に歪んだ。
「…はあ?」
「いきなり何を言い出すんだって顔してる」
歪んだ彼の顔を見てにこりと微笑む。俺を見てさらに歪んだ。
「そりゃあなあ…。いきなり意味わからねえし」
サラサラの青年の髪に指を通す。キューティクルばりばり効いてて同じ長髪としては羨ましい限りよ。
「…聞いてんの?」
肌とか白くて若いからすべすべしてて気持ちいい。懐かしい感触だよ、おっさんもこんな肌の時期あったよなー。
ぼーっとしてたら手をはたかれた。なんかしたっけ?
「聞いてんのかっつってんの。俺の話聞いてんの?」
「聞いてるに決まってるでしょうが。俺様がだーいすきな愛してる青年様のお話だもんねえ」
「うざい黙れ」
「はいはい」
だんだん酷くなってくる口の悪さも全然平気。慣れはしないし今もショック受けるけど、こういうもんだと思えば可愛いもんよ。
「だから、なんで俺が可哀想かってことだよ。理由は?」
「だって青年はこの俺様にこんなに好かれちゃってこんなに大事にされちゃって、こーんなに愛されちゃってるんだもん」
それって可哀想だと思わない?
耳元で囁く。ビクリと肩が動いた。相変わらず耳弱いんだよねえ。あー可愛い。
「……な」
「んー?」
なんていったのかわからなかったけど凄いこと言われた気がする。
「…むしろ大歓迎だけどな」
なんで青年はこんなに可愛いの。照れたりしないで。顔背けても耳真っ赤だから分かるって。
「だったらさ、」
大歓迎ならまた囁いてあげよう。俺だけが知る青年の弱点の耳元で。
それから髪を触ってあげよう。羨ましいんじゃなくて好きだから。
肌にはキスをあげよう。降り注ぐ雨のように、痕だってしっかり残して。
「俺だけでいいよね?」
薄幸な男
(絶対離してやんないからね)(これで薄幸な訳ないじゃん)
可哀想って思えるくらい人を愛せるっていいなって思った