小説N

□bsr連載
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油断大敵!前にも言ったかもしれないこの言葉を、私はもう一度心の中で叫んだ。





卯之助君のリクエスト通り、火箸を両手に持ちつつ二、三度突き刺すようにして山賊を倒して行く私。
申し訳ないけれど、私には急所なんてところはわからないからとりあえず刺しまくっているけれど、どうか私のことはたたらないでいただきたい。私は悪くありません。祟るならムニルさんでお願いします。
いつもの蛇惹は大剣だし、いくら接近戦といえどある程度の距離を以っての戦法だから、安定しているといったらいいのか慣れているといったらいいのか。
それに比べて火箸は攻撃範囲も一気に縮まるために、懐に入って間近で振りかざして殺すので悲鳴も血飛沫も、相手の攻撃も間近だ。
お陰でうるさいし、顔面血だらけだし、私も斬られまくって服がぼろぼろだ。
あえて、「私が」と言わないあたりは察していただきたい。

悲鳴を上げ、逃げ出す山賊の背中を走りながら追いかけ追いかけ、中心より左よりのとある部分を狙って火箸を突き立てる。
心臓にあたっていたらいいなっていう願いを込めて、一回、二回、三回、四回。
両手の火箸を交互に突き刺し、抜いて、突き刺し、抜いて、腕を振り上げたときに火箸にくっついてきた血管の一部が唇に飛んで、口内に血の味が広がった。
すぐに、吐き出したけど。

が、あ、あ、あ、と、私の攻撃に合わせてあがる悲鳴に気をくれていれば獲物がどんどん逃げてしまうから、四回突き立てた後はそいつを捨てて次を追いかける。
背後の山賊の悲鳴が小さくなるのに一瞬、目が細まってしまうけれど、私は追いついた山賊の背中に飛び掛ってまた目を見開いた。

「ぎゃああっ、あぐうっ!」

ウラウラウラウラ、口には出さない掛け声は心の中だけで。
徐々に募る不確かな興奮と言ったらいいのか、暗雲のような快楽と言ったらいいのか、極彩色の怒りと言ったらいいのかわからない感情を必死で抑えつつ、私は最後の山賊の命をひねりつぶした。






「…。」

最近、タガが切れやすくなってる。
沸点が低くなりつつあるのかも。そうは思っても、何が原因なのかはわからないからあえて無視。
前にムニルさんに言ったけど、ムニルさんは片眉あげて「ハア?」とか言ってた。
思い出すだけでイラッとするからそのことについてはあえてノーコメントだけど、…まあ、ムニルさんがわからないんなら多分なんでもないんだろう。私の気のせいか、そうか…。

どれ、卯之助君でも呼びに行くか。
彼を一度呼びに行かねば、無言の圧力が痛いのだ。まったく死体相手に酔狂なもんだと、ため息つきながらしゃがみこんでいたひざをぱしんと叩いて立ち上がり、火箸をたもとに押し込んでくるりと振り返る。
卯之助君たちがいるであろう場所に向かって歩き出すため、一歩、足を踏み出したとき。
私は遅すぎるけれど、後悔したのだった。

「ッ兄貴たちの仇ぃぃい!!」
「っ!」

どん、と背中から体当たり。
ではないようだ。

ひやりと冷たい何かが肌に触れて、あれ?と思考の中だけで首をかしげる。
クウェスチョンマークの飛び交う思考とは逆に、脳内はその冷たい温度の正体を探り、探り、探り、探り、―――





「あはっ、最後の一人、みぃつけたぁっ」





私は意識をしっかりと保ったまま、
今はじめて、タガを外したのだった。












がん細胞の恋愛物語

(全身神経が冴え渡る)

―――――

次はグロです。多分。

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