小説N

□幸村成り代わり
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彼草色の肩掛けを棚引かせ真田の旦那は俺の後ろを走った。
この前泊まったお宿から旦那の様子がおかしいのには気づいていたけど、旦那は正直な人だし、言いたいことは言ってくれるだろうから深くは詮索しないことにする。
黙々と馬を走らせているおかげで、先日よりもずっといいペースで進めている。
この分なら予定より早く甲斐に着きそうだ。

途中、山中の川に馬を止め、そこでの野宿を決定すれば、旦那は少し火にあたったかと思ったらすぐに眠ってしまった。

肩掛けを毛布代わりに丸くなる旦那の背中を眺める。彼女の肩が、一定のリズムで穏やかに上下しているのを見て、肩の力を抜く。それと同時に、俺はため息をついた。

「…なんでこんなにやりきれないんだ。」

暢気にもすやすやと、俺様の前で眠る旦那。
旦那には、男の前で油断をするなと教え込んできたつもりだったけど、わかってもらえなかったのだろうか。
俺様だからこうして警戒を解いてくれているという考えもできるけれど、うれしい反面なんだか複雑だ。
確かに、俺様と旦那は小さいころから一緒だし、男って言うより兄貴って感じかもしれないけど…。

そこまで考えて、はたと顔をあげる。
あれ?何よ俺様、兄貴って立場が嫌なわけ?っていうか兄貴以外になりたい立場なんてあったわけ?
自分に問いかけるけれど、煮えきらずに不完全燃焼で消えていく。
最近俺様おかしいんだよね。あれかな、女を抱いてないとか、鍛錬をおろそかにしているからとか。
見張りをしている身なのに、こんなことじゃいかんとガシガシ頭をかく。
川原で手ぬぐいを洗って、冷たくなったそれで顔をぬぐえば、いくらかすっきりした。

ふと。
ぬれた手ぬぐいを焚き火にかざしつつ、俺は旦那に眼をやる。
穏やかに眠るそのさまは見ていてなぜか癒されるけれど、それと同時に憎らしくも思えてきて、それは俺にいたずら心を芽生えさせた。
そろそろと音を立てずに近寄り、目をつぶる旦那の顔を覗き込むと、滑らかな頬骨を伝って落ちる筋の向こうに、白い首筋が見えて、どきりと心臓がうずいた。

旦那は、俺の贔屓目無しに見てもいい女だと思う。
きれいとは言いがたいけど、かわいいし、人懐っこいし、女武将だからか知らないけど、普通の女とは違った魅力がある。
時折覗かせる真剣な表情もぐっとくるし、花が咲いたようなはじけんばかりの笑顔もたまらない。
こんな旦那が、どうして今まで輿入れの申し出がなかったのか考えてみれば、旦那の性格の所為か、…もしくは、俺様の存在の所為か。

心配って言う気持ちもあるけど、実は、このまま誰のところにももらわれずに武田軍でずっと、大将と馬鹿やったり、俺様と甘味食ったりしていればいいって思う。
こんなこと叶うわけないのは知ってるし、叶っちゃいけないのもわかってる。
でも、心の中だけで望むくらいはきっと、神様も許してくれるだろう。

そっと、旦那の肩に手を置き、少しひっぱれば、旦那のからだが仰向けになる。
うっすらを目を覚ました旦那が、「見張り交換…?」と眠そうな顔でそうたずねてきたので、笑って首を横に振り、前髪をさらさらなでてやれば、旦那はまた眠りについた。

「…。」

あんたが無防備なのが悪いんだぜ。旦那。
ちっと痛い目見ればいいんだ。
上辺はいたずら。心の奥では、言葉に言い表せない緊張にどきどきしながら、俺様はそっと旦那の首筋に顔をうずめた。










能天気ガールの脳みそ

(白い首についた小さな痕に、一人で満足感味わってる俺様)

―――――
こいつ寝込み襲いやがった…( ゚Д゚)ポカーン

夢主の肩掛けはあれです。アニメで幸村が遠出するときに羽織ってるマント的ななにかです。

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