小説P

□エーテル
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そういえば、
知らない誰かに抱かれてこの家にはじめてきたときに、私は言われたんだった。

何も知らないうちに有名になって、英雄扱いされればきっと、戸惑ってしまうだろうと。
マグルであり、唯一の血縁であるダーズリー夫妻の家で暮らしたほうが、私にとって最善であると。

ひどく年をとったしゃがれた優しい声色で、ずいぶん恐ろしいことを口走ってくれたものだと、今になって思う。

この生活が、私にとって、ハリーにとって、最善であるというならば、ほかの子供は、いったいどんな「最善」を送っているというのだろうか。

びりびりと、いまだしびれる頬と耳にじわりと涙を浮かべ、私は放り込まれた物置小屋でうずくまった。

ちょん、と、指先で頬に触れてみる。
じりっと電流のように走る痛みに、ああこれは腫れているなと心の中で悪態ついた。
だけど、これだけでよかった。
便器に顔を突っ込まされるとか、廊下を舐めてきれいにしろとか、ダドリーの下僕になれとか言われなくてよかった。

散々殴られ、最後にはしばらく飯抜きの言葉とともにここに突っ込まれて外から鍵をかけられてしまったけど、さっき言ったようなことがないだけましだ。

ご飯だって水だって、ちびちびと溜めた非常食があるし。


それよりも、もっと大事なのはダドリーの手だ。

怪我の心配ではなく、なぜダドリーの手に怪我が――・・・やけどができたのか。
ダドリーの話に寄れば、ダドリーは私にやけどさせられたと泣き喚いていたけれど、普段ダドリーときたらうそばかりついて私が怒られなければならないのであまり信用できない。
けど、今回ばかりは私もうなずかずに入られなかった。
トレーナーを引っぺがそうとしたとき。
確かにあのとき、私は心のそこからやつを嫌悪した。
私に力があれば、あいつを蹴っ飛ばして押し倒してぼこぼこに殴って最後にはめった刺しにして殺してしまいたいとさえ思った。
それができない自分に情けなくも思った。
そんな感情の裏側で、なにかがぱちんとはじけ、そのときにダドリーが悲鳴を上げた。

これは、私のせいだと認めざるを得ない。

もともと、私には魔法力があるのは知っている。
けれど、それをきちんと制御できず、有効に使えないってことも理解している。
原作のハリーだって、ピンチの時にはいろんな不思議があったけれど、私の場合は人体に危害を加える「不思議」が起きてしまったのだ。

結果的に、私の貞操は守られたわけだけど、これは原作との相違点と言えるだろうか。
まあ原作どおりに進めようと言う気はないけれど、それでもダーズリー家から離れるまでは間違いのない原作ルートを進むのが利口だし、・・・もしこの相違点が影響するとすれば、少しまずい。

あと一年もすればくる・・・ハグリットとやらとの関係になにか悪影響がなければいいのだが、と、私は一人冷や汗をかいた。








臓物まで震える

(永遠にここにいるなんて、そんな恐ろしいこと考えたくもない)


―――――
ちょっと焦った主人公



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