小説P

□エーテル
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ようやくペチュニアさんとバーノンさんからお許しを受け、私は家から出ることができた。
私を見ると大げさにおびえ、喚くダドリーのおかげで、私は朝ごはんも作らずに早々に家からたたき出されるけれど、朝ごはんを作らなくてもいいのはラッキーだし、お昼ご飯と朝ごはんはキッチンから掻っ攫ってきたクロワッサン三つがあるからなんとなかる。
物置小屋からは出られるし、ご飯は作らなくていいし、朝からダドリーたちにいびられることもないなんて、久しぶりにこんなにいいことが続いた。
学生や仕事に向かう人々が、バスや車、徒歩で道を行く早い朝の光景にほんのり頬を緩めながら、私はうきうきと学校へ向かった。






学校に着くと、机が消えていた。
なんだか、前世で似たような描写をとあるいじめ漫画で見た気がする。
捨てられたのだろうかと眉根を下げれば、朝の早い生徒ががらりと教室の扉を開き、私の姿を見つけてひいっと悲鳴を上げた。

「…あ、あう…」
「…。」

とりあえず、ぺこりと頭を下げる。
けれど、そんな私の会釈も知らず、生徒は慌てて教室から出て行ってしまった。
なんとなく居心地が悪いが、仕方がない。
空き教室から机といすを取りに行くべく、私も先ほどの生徒と同じように教室を出た。

ぱたぱたぱたと、シューズが廊下を叩く音が静かな校内に響く。
私以外の人間が酷く少ないということを物語る静寂に、なんとなく安堵しながら、骨に皮を張ったような腕で机を持ち上げた。
いすは机の上に重ね、一気に持ち運ぶ。
見た目の割りに、机といすを軽々と運べるのは、常日頃ダーズリー家でやらされているということを物語る。
重いものも重いと感じなくなってしまった自分の腕は、強化された、わけではないようで、ただ麻痺してしまったのだと思うと悲しくなる。
けれどもそれは、私にとって苦痛を感じない手段なのだから仕方がない。

がたがたと、耳障りな音が廊下を反響し、煩く思うと同時に、大きなその音に心臓が不安げにうずくのを感じた。



教室に着くと、先ほど入ってきた生徒が戻ってきていた。
今度はその生徒の友人も一緒らしく、三人の生徒がきょとんとした顔で私を見つめている。
その視線を、見つめ返すことで散らせた私は、やはり何も言わずに元の自分の机の会った位置に持ってきた机をおいた。

その間、私の背中におずおずと向けられる三人の視線。
私と見詰め合うとそらすくせに、私が背中を向けていると見てくるところはなんともイラつく。
何か言いたいことでもあるのなら言えばいいし、したいことがあるならすればいい。
意味もなくわたしを見ることがまずいらだたしくて、私は無意識にはあと大きなため息をついた。

「っひ、」
「…」

またしても、悲鳴。
別にひどいことをしているわけじゃないのに悲鳴を上げられるのは酷く心外だが、私は気にせずにくるりと振り返った。

ぱちり。私が振り返るとは思っていなかったらしい生徒達と、私の視線が交わる。
数秒間、絡まった視線は、慌ててまたそらされたけれど、私はすぐに口を開いた。

「なに?」
「…っ?」
「私に何か、言いたいことでもあるの?」

じっと、瞳を強くさせてたずねる。
息を呑む生徒にひくりと眉を引きつらせれば、三人のうち、一人が急いでいった。

「な、んでもないです。」
「…じゃあ見ないで。気になるから。」
「は、はい、ごめんなさい。」

ぺこり、と頭を下げる一人に釣られるように、もう二人も頭を下げる。
見ないでと、ただそういっただけなのに頭を下げられて変な気分だが、これ以上気にしていては埒が明かないので、もうひとつため息をついてかばんからクロワッサンと本を取り出す。

私の言葉通り、不自然ではあるもののこちらを見なくなった生徒に満足しつつ、私は久しぶりの明るい場所での読書を楽しんだのだった。

まあ期待はしていなかったけど。
私は、久々の静寂のときを一瞬充実し、感謝した後に恨んだ。
勘違いさせるようなことしないでよ神様。別に、神様なんて信じていないけど。


「ハリー、こっちにきて。」
「…はい先生。」


普段は、そこそこいい成績の私には甘い先生だけれど、クラスでも随分と態度のでかく有名なモンスターペアレンツをもつダドリーに怪我をさせたとなれば黙っちゃいられないんだろう。
厳しい表情の先生は、湿ったブロンドを右に撫でつけ、ひょいひょいと私を手招く。
私のことを遠巻きに見ていたクラスメイト、主にダドリーたちは、私の背中をにらみつけるように見ながらくすくすとほくそ笑んでいる様だった。


「なんですか?」
「…少し話がある。」


なるべく、不機嫌なことがばれないように、無表情で先生に尋ねれば、先生は片眉を吊り上げて鋭く言い放つ。
やっぱり説教みたいだ。うざい。
そうは思いながらも、やっぱり文句を言えばダーズリー夫妻に報告されかねないので従うしかない。あー面倒くさい。


―――――


「ハリー。どうしてダドリーに怪我をさせたんだ?」
「…ごめんなさい。」


内心では、黒い色の感情が渦を巻く。竜巻のように心中を荒らして、それでも私は表情に出すまいと必死にこらえた。


「あんなにいい子だったのに。君には失望したよ。」
「…ごめんなさい。」
「…謝るだけか?」


反省はしているのか?と、口元を引きつらせた先生。
きっと、ただ「ごめんなさい」を繰り返す私にいらだち始めているんだろう。
いい気味だ。けれどこのままでは怒られてしまうかも。
でも、ごめんなさい以外に何かを言おうとしたら、もしかしたら文句を言ってしまうかもしれない。
ほんの少しの可能性でも、警戒は怠ってはいけない。
ダーズリー家で育てられるようになってから、心がけていることだ。


「まあ、最近の不良は意味もなく他人を傷つけると聞くがね。」
「…。」
「あんなにもいい子を傷つける意味がわからないよ。」

いい子、か。
まあ、確かに先生の前ではいい子かもしれないね。
あいつ、ムードメーカー気取って他人をいびってるくらいだから。
何も言わずに黙り込み、先生のくだらないおべっかを聞き流すけれど、先生にはばれているだろうか。

だんだんと不機嫌になっていく先生の声色に、私は噴出しそうになってしまった。


「ハリー!聞いているのか!」
「っ、」


ぐい、と、胸倉を引き寄せられる。
近づいた先生の顔。苛立ちを隠し、眠たげな表情で先生の瞳を見つめ返せば、先生は息を一瞬呑んだようだった。何さ。


「…っ、そうやって、お前は教師を誘惑しているのか?」
「…はあ?」
「そうだな、いいだろう。先生がお前を教育しなおしてやる。私の教育についてこれれば、今回のことは許してやってもいいぞ?」「…なに、いって、」
「さあきなさい。」
「っ!」


突然様子の変わった先生は、不機嫌そうな顔を一変させ、なんだか頬を上気させうっすら緩んだ口元からは荒げた呼吸が漏れる。
嫌な予感だ。しかも、前にもあったね。
ざわりと全身の皮膚の上を悪寒が走り、私は慌てて、つかまれ引っ張られた腕にまとわり付く先生の手を振り払った。


「触らないで!」
「!?」


ぱしり、と振り払うついでにひっぱたいてやれば、きょとんと呆ける先生の顔。
初めての抵抗で、私も心臓がどくどくと脈打った。緊張する。けれど、いい機会だからいってやろう。


「先生…あんた、ダドリーがいい子だって言ったね。」
「…は、ハリー?」
「いいこと教えてあげる。あいつもね、あんたとおんなじで、私に手を出す変態野郎だよ。」
「…!?」


変態やろう、の言葉が聞いたのか知れないけど、先生の顔が赤くなる。
照れてるのか、怒っているのかは知らない。
けど、なんだか心の奥がすうっとする気がした。


「ねえ先生、前に、ダドリーに『先生はすばらしい先生だ』ってほめられてたね。私あのとき、笑い出してしまいそうだったよ。だってね、先生がくるほんの3分前まで、あいつは先生の頭をアブラムシの背中みたいだって言ってたんだよ。テラテラ光って気持ちが悪いって笑っていたんだよ。あは、あはは!おなかが痛くてしょうがなかった。だってせんせい、ダドリーに、ダドリーにほめられて、泣いちゃうんだもん!あははは!」
「…っ、ハリー!」
「なによ。何か文句でも言いたくなった?ええどうぞ言ったらいいわ。けどその前に言わせていただきますけどね、あんたが生徒のことを語る資格なんてひとつもないんだよ。生徒のことを何一つ解かっていないあんたが言っても、私達は少しも反省しないし、感動もしないし、うれしくもなんともない。ただ不愉快なだけなの。いい加減自覚してくれない?あんたみたいな三流教師、私達にはありがたくもなんともないってね!」
「っ、っ!!」


マシンガンのようにいい連ねる私に、先生はパクパクと金魚のように開いたり閉じたりするばかり。
とてもすがすがしい。けれど、なんだか申し訳ない気もするし、…この後のことも心配だ。

いまだに何も言わない先生にひとつため息をつき、持ってきておいた自分のかばんを担いで「それでは失礼します」と言い捨てた。










遠巻きのひとびと(後)

――――――

どら○もん見ながら。
こんなgdgdでいいのかなあ。
っていうかありがちすぐるwwwww



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