BL 短編
□ムカつくから
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真夜中の3時頃―…。
ジルはそろそろ寝ようと、明かりを消して、ベッドに潜り込む。
ヒュウッと心地よい風がジルの頬を撫でる。
あー…窓閉めて無かったな…。
起きてから閉めに行くの面倒臭いし…此処、凄く高い位置に設置してあるから、窓からの侵入者は居ねーだろ…。
ジルは眠気に負けて、窓を閉めに行くのを止めた。
それが、まさか命を狙っている人物が侵入するとは知らずに。
ジルは良い感じにウトウトし始めた時、不意に何処かで聞いた事がある様な無い様な声が部屋に響く。
「窓、開けっ放しなんて、6弔花の癖に危機感が0ですねー」
ジルは突然の声にビクッとして、寝ていた身体を起こす。
突然の声の主は開け放たれた窓の枠に、足を組んだ状態で座っている。
「お、お前…っ」
ジルが焦った様子を見ると、その人物はクスクスと笑う。
ジルはこの人物を見た事があった。
「6弔花の癖に、無防備で吃驚ですよー。何時、誰から命を狙われるか判らないのにいーんですかー?」
「…思い出した…お前、あの時ベルと一緒に居た…カエルの奴…」
「カエルだなんて、全く兄弟って似てますよねー」
今はその人物はカエルの被り物を被ってない。
色素の薄いストレートな髪が風に吹かれて、棚引く。
「…何しに来た…?」
その人物は笑みを保ったまま、窓枠から降りて、音を立てず、部屋に立つ。
「あんた、ムカつくんですよねー…だから」
その人物はジルの座っているベッドに近付いて来て…素早く懐から何かを取り出し、それをジルの首筋に宛てた。
ヒンヤリと冷たい感触にジルは身動ぎする。
「なっ…」
「あ、紹介が遅れましたー。
ミーはフランっていいますー」
フランは何かを首筋に宛てたまま、ジルの背部の方に回り、空いている腕をジルの首に回す。
足でジルの動きを完全に封じる。
「―…だから、あんたを殺しに来ましたー」
冷ややかな声で平然と恐ろしい事を言ってのけるフラン。
ジルの額にうっすらと汗が浮かぶ。
「…ムカつくから…殺しに来た…って?」
「そうですー。
あんたが生きているって判った瞬間から、ベルセンパイ、可笑しくなっちゃったんですよねー。
可笑しくなった原因は、紛れもなくあんたのせいだろうと思って、ベルセンパイの代わりにミーがあんたを殺しに来ましたー」
「…………」
首筋に宛てているモノはナイフか?
しっかりと一発で逝ける様、頸動脈に刃が向いている。
「あんたが死ねば、ベルセンパイは多分、楽になるんですよー。弟を想う兄なら…引き受けてくれますよねー?」
ブワッと殺気がジルを包む。
どうやら、フランの言っている事は本気らしい。
スッ…
鋭い痛みを感じる。
ジルが小さく悲鳴を上げ、フランから逃れようと身動きする。
「あ"ぁ…っ」
「あ…ベルセンパイと同じで、血に酔ったりするんですかねー?」
フランは暴れだすジルをしっかり抑える。
そして、耳元でこう言った。
「あんまり、暴れるともっと痛い目に遭いますよ…?」
「あ"あ"ぁ…っ!!」
すると、部屋の扉が慌ただしく叩かれる。
「ジル様!?どうなさったのですか!ジル様!?」
恐らく、この王子の執事だろう。
フランはチッと舌打ちして、ジルから離れる。
ナイフには、生暖かいジルの血液がベタッと付着していた。
「痛い…」と呻く王子が自分の血で暴れだす前に、フランは素早く開け放たれた窓枠に足を掛ける。
「―…今回は邪魔が入ったから、命は預けますけどー…今度会う時は、その命、容赦なく戴きますよー?」
フランはそう言って、ジルに笑いかけた。
そして、まだ明けない闇の中へと潜り込んだ。
END